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【Architecture】データメッシュアーキテクチャの4つの基本原則

前回の記事でデータメッシュアーキテクチャの概要と従来のデータアーキテクチャの課題について紹介しました。今回の記事はその続きになります。 今回も概念的な話になり具体性には書けますが、データメッシュアーキテクチャの4つの原則について触れたいと思います。

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記事のポイント
  • データメッシュアーキテクチャの4つの基本原則

前回記事の振り返り

前回ではデータメッシュの基本理念と従来データアーキテクチャの課題について触れました。特に従来データアーキテクチャの課題は、組織のスケーリングに失敗している点にあると考えています。企業が成長し、取り扱うデータの量や種類、ユースケースが増加することに伴い、多数の事業ドメイン(N)と単一の中央データ管理チーム(1)という「N:1」の関係性が生まれます。この構造が、コミュニケーションの断絶(中央のデータ管理チームの業務知識不足)やインセンティブの不一致(データ生成者は消費者向けの品質に責任を負わない)を引き起こします。この問題は、中央チームに人員やより高速な技術を追加する(スケールアップ)だけでは解決が難しく、構造的な変化が必要だと考えられており、この新しい構造がデータメッシュという考え方につながります。

データメッシュアーキテクチャの4つの基本原則

データメッシュの概念は、相互に依存し合う4つの基本原則によって支えられています。これらの原則は個別に適用されるべきではなく、一つの統合されたシステムとして機能することで、データメッシュの真価を発揮します。

1. ドメイン指向の分散型所有権

概念

これはデータメッシュの最も根幹をなす柱です。データの管理責任を中央集権型のデータ管理チームから、そのデータの文脈を最も理解しているビジネスドメイン(例:営業、マーケティング、財務)に移譲することを基本とします。

実装

各ドメインは、自らの領域で発生または利用するデータに対して、収集、クレンジング、変換、そして最終的な提供に至るまで、エンドツーエンドで所有権を持ちます。これは単なる責任分担の変更に留まらず、アーキテクチャレベルでの物理的・論理的なデータ管理の分散化を意味します。

目的

データ管理をビジネス機能と直接結びつけることで、中央のボトルネックを解消し、ドメイン固有の専門知識を活用してデータの品質とビジネスへの関連性を向上させることが目的となります。

2. プロダクトとしてのデータ

概念

各ドメインは、自らが提供するデータを単なるデータの集合体としてではなく、価値を提供する「プロダクト」として扱わなければなりません。そして、そのデータを利用する他のチームやユーザーを「顧客(カスタマー)」と見なす、プロダクトマネジメント思考の導入が求められます。

実装

高品質なデータプロダクトには、明確なドキュメンテーション、継続的なデータ品質の監視、そしてAPIなどの標準化されたアクセス方法を提供することが求められます。

  • 発見可能(Discoverable): データカタログなどを通じて、利用者が簡単に見つけられる。
  • アドレス可能(Addressable): 一意のアクセス方法(例:APIエンドポイント)が提供されている。
  • 信頼可能(Trustworthy): 品質の高さが保証され、SLA(サービスレベル合意)が定義されている。
  • 自己記述的(Self-describing): メタデータが充実しており、データの意味や構造が容易に理解できる。
  • 相互運用可能(Interoperable): グローバルな標準に準拠し、他のデータプロダクトと容易に組み合わせられる。
  • 安全(Secure): 適切なアクセス制御とセキュリティ対策が施されている。

目的

データのユーザビリティ、信頼性、そして最終的なビジネス価値を最大化することが目的です。これにより、データ提供者がその品質と利用者体験に責任を持つ文化を醸成し、データの再利用性を高めていくことにつなげていく必要があります。データはビジネスドメイン内で活用する資産ではなく、他ドメインで利用してもらうためのプロダクトなのです。

3. セルフサービス型データプラットフォーム

概念

データエンジニアリングの専門家ではないドメインチームが、自律的にデータプロダクトを構築・管理できるようにするため、中央のデータ管理チームがセルフサービス型のデータ基盤を提供する必要があります。

実装

このプラットフォームは、データストレージ、計算リソース、監視、ガバナンス機能など、データプロダクト開発に必要な技術的複雑さを抽象化し、使いやすいツールやサービスとして提供する必要があります。理想的には、ローコード/ノーコードのGUIや、宣言的な設定ファイルを通じて利用が望ましいです。プラットフォームは汎用的であり、どのドメインチームでも新たなデータプロダクトを容易に構築できるものでなければ利用されなくなり、形骸化を招く危険性があります。

目的

ドメインチームがインフラ管理の煩雑さから解放され、データの価値創造に集中できるようにすることが重要です。これにより、各ドメインでの重複した技術開発を防ぎ、開発の摩擦と認知負荷を低減することに繋げる必要があります。

## 4. フェデレーテッド(連合型)計算ガバナンス

概念

この原則は、各ドメインの自律性と、組織全体としての相互運用性、セキュリティ、コンプライアンス遵守という要求との間のバランスを取るための仕組みです。これは連合(フェデレーション)モデルであり、ドメインの代表者や中央のIT・セキュリティ部門から構成されるガバナンス組織がグローバルなルールを定義し、各ドメインはその枠組みの中で自律的にルールを実装できるような仕組みが必要になります。

実装

重要なのは「計算(computational)」という側面です。データ品質、プライバシー、アクセス制御といったガバナンスポリシーは、単なる文書ではなく、コードとして表現され、セルフサービスプラットフォーム上で自動的に実行・監視される必要があります。これにより、ガバナンスは手作業のチェックリストではなく、システムに組み込まれた動的な機能となり、より均一的なガバナンスが効くようになります。

目的

中央集権的なガバナンスのボトルネックを生じさせることなく、分散されたデータ環境全体でのスケーラビリティと相互運用性を確保することが重要です。これにより、信頼と安全性が担保されたデータエコシステムが実現可能となります。

まとめ

これら4つの原則は、個別に選択するモジュールではなく、相互に依存し、互いに強化し合う統合的なシステムです。例えば、「ドメイン指向の分散型所有権」(原則1)を導入しても、「プロダクトとしてのデータ」(原則2)の考え方がなければ、管理責任者は明確でも、誰も使わない高品質なデータサイロが生まれることになります。また、「セルフサービス型データプラットフォーム」(原則3)があっても、「フェデレーテッド計算ガバナンス」(原則4)が整っていないと、プラットフォームの利用は無秩序になり、セキュリティやコンプライアンスリスクが高まる可能性があります。 部分的な導入などの安易なアプローチは、失敗に終わる可能性が高いことを理解し、それぞれの原則が相互に依存していることを十分に認識する必要があります。 今回は、データメッシュアーキテクチャ4つの原則について紹介しました。ここまでの話は概念的な話で具体的な技術・製品やデータメッシュアーキテクチャの懸念点などについて、今後の記事で触れていきたいと思います。よければご一読いただけますと幸いです。